法律相談のいくつかの事例をご紹介します。
Q1
大学在学中にある会社から内定をもらっていたにもかかわらず,卒業間近に 内定を取り消されてしまい,卒業後しばらく無職でした。この会社に賠償を求めることは出来ますか。
Q2
私の会社では,残業をしても残業代を払ってくれません。残業代を払ってもらうようにするためには,どこに相談をすればよいのですか。
Q3
私が勤めている会社では,これまで従業員全員に賞与が支払われていたのですが,突如,一定のノルマが達成されないと賞与が一切支給されないこととなりました。このような会社の一方的な通告は有効なのでしょうか。
Q4
会社から,不況のため生産調整を行うということで,自宅待機を命じられました。そして,その間の給料はそれまでの6割しか支払われないというのですが,納得できません。
Q5
会社から,課長への昇進を命じられました。しかし,私は介護が必要な家族を抱えているため,私はその昇進を断りました。すると会社は,懲戒解雇をちらつかせてきました。やはり昇進命令には応じないといけないのでしょうか。
Q6
家族の介護があるため,関東限定で採用された会社だったのですが,関東の事業所のほとんどが閉鎖されたため,通勤不能な九州への転勤を命じられました。やむなく退職したのですが,「一身上の都合」とする退職届を出したため,退職金が低く抑えられてしまいました。
Q7
職員のスケジュールを管理するための作業表を紛失してしまったことを理由に,役職を降格させられ,賃金も大幅に減額となってしまいました。会社は一方的に降格させたり,賃金の減額が出来るのでしょうか。
Q8
親会社に勤めてきたのですが,この度,子会社に出向となりました。他の出向者は数年後には親会社に戻って来るのですが,私については,3年後には子会社に転籍になると予告されています。これは仕方ないことなのでしょうか。
Q9
勤務時間中に,会社のパソコンを使って,私用メールを送受信していたら,懲戒処分を受けてしまいました。しかし,これは会社によるプライバシー権の侵害ではないでしょうか。
Q10
建設会社の現場監督として働いていたのですが,病気により,外で長時間勤務することが出来なくなったため,事務作業をする部署への配転を会社に求めました。しかし,会社はこれを認めてくれずに,解雇されてしまいました。この解雇は覆せないものでしょうか。
Q11
現在パートとしてある事務所で働いているのですが,パートには労災保険の適用はないと事務所の人に言われています。私が仕事で怪我などをしたら,どうなるのでしょうか。
Q12
工場に勤めている私の主人が、作業中、手をはさまれるという事故に遭いました。事業主に労災保険の保険給付を受けられるように手続をして欲しいと頼んだのですが、夫にも不注意があった事故だから労災保険は支給されない、また、そもそもうちの会社は労災保険に加入していないし、保険料も支払っていないから手続をしても無駄だと言われました。本当に保険給付を受けられないのでしょうか。
Q13
今の会社に採用されて3年経ったのですが、その間、昇給はありませんでした。業績が思わしくないので、我慢してくれというので、渋々納得しました。ところが、今度は、いきなり、給料を下げるといってきました。こんなことが許されるのでしょうか。
Q14
私は、今年5月に退職する予定ですが、就業規則によると勤続年数に応じて退職金を受け取ることができることになっています。しかし、最近になって、社長から、退職金については、1年前に就業規則を変更したので、今までの半分しか出ないと言われました。そのような変更がなされたことは全然知りませんでしたが、調べてみると確かに労基署に変更届が出され、受理されていました。私は、半分の額の退職金で我慢しなくてはならないのでしょうか。
大学在学中にある会社から内定をもらっていたにもかかわらず,卒業間近に 内定を取り消されてしまい,卒業後しばらく無職でした。この会社に賠償を求めることは出来ますか。
内定によっても,労働契約は成立すると考えられています。そのため内定の 取り消しが適法と認められるのは,採用内定時に会社が知ることが出来ずに後に明らかになった事情で,客観的に合理的と認められ,社会通念上相当とされる場合だけです。例えば,内定後に破廉恥罪を犯したこと等は,これにあたるでしょう。しかし,内定取消に正当な理由がない場合には,逸失利益や慰謝料の請求を会社に行うことが出来ます。
私の会社では,残業をしても残業代を払ってくれません。残業代を払ってもらうようにするためには,どこに相談をすればよいのですか。
労働組合に相談をして集団的に解決をしたり,労働基準監督署に申告をする(会社に対しては氏名を明らかにしないという取り扱いも出来ます),ということも出来ますが,裁判所を利用することも一つです。残業時間に関する証拠をそろえて,弁護士にご相談ください。
私が勤めている会社では,これまで従業員全員に賞与が支払われていたのですが,突如,一定のノルマが達成されないと賞与が一切支給されないこととなりました。このような会社の一方的な通告は有効なのでしょうか。
賞与は,賃金の後払いとされています。つまり労働の対価ということです。ですから,合理性のある差を支給額に設けるのであればともかく,一切の支給がないということは,労基法違反と考えられます。
会社から,不況のため生産調整を行うということで,自宅待機を命じられました。そして,その間の給料はそれまでの6割しか支払われないというのですが,納得できません。
確かに,労働基準監督法26条によれば,平均賃金の6割を会社は支払えば良さそうですが,これは間違いです。6割とは,これを下回れば罰則があるという基準であり,これだけ払えば後は免除されるわけではありません。自宅待機中の期間も,会社には,これまで通りの給料を要求出来ます。
会社から,課長への昇進を命じられました。しかし,私は介護が必要な家族を抱えているため,私はその昇進を断りました。すると会社は,懲戒解雇をちらつかせてきました。やはり昇進命令には応じないといけないのでしょうか。
使用者は,労働契約に基づいて,人事異動を行う権限を有しているとされています。しかし,その権限の行使も,権利の濫用とされる場合には許されません。つまり,あなたを昇進させようとする会社側の事情と,あなたが家族を介護しなければならないという事情を比較考量して,権利の濫用とされるかどうかを判断することになります。
家族の介護があるため,関東限定で採用された会社だったのですが,関東の事業所のほとんどが閉鎖されたため,通勤不能な九州への転勤を命じられました。やむなく退職したのですが,「一身上の都合」とする退職届を出したため,退職金が低く抑えられてしまいました。
自己都合退職の場合には,会社都合退職の場合と比較して,退職金の支給額が低額の会社が多いのですが,実際にどちらの理由による退職なのかは,退職届記載の理由に止まらず,退職に至る具体的な事情を総合的に判断する必要があります。このケースでは,会社の都合により退職に至ったとして,会社都合退職による退職金を請求できる可能性があります。
職員のスケジュールを管理するための作業表を紛失してしまったことを理由に,役職を降格させられ,賃金も大幅に減額となってしまいました。会社は一方的に降格させたり,賃金の減額が出来るのでしょうか。
会社は,人事上の措置として,役職の引き下げ等をすることができるとされていますが,人事権の濫用にあたる場合には降格は無効です。そして,賃金の減額については,この人事権の濫用にあたるか否かの一要素として検討されることになるのが一般的です。降格が妥当なものかどうかについては,弁護士にご相談ください。
親会社に勤めてきたのですが,この度,子会社に出向となりました。他の出向者は数年後には親会社に戻って来るのですが,私については,3年後には子会社に転籍になると予告されています。これは仕方ないことなのでしょうか。
転籍については,労働者側の同意が不可欠です。そのため,会社が一方的に「転籍させる」と命じても,それは無効です。これとの関連で,このケースでは,そもそも出向じたいが,権利の濫用として無効とされる可能性がありますので,弁護士にご相談ください。
勤務時間中に,会社のパソコンを使って,私用メールを送受信していたら,懲戒処分を受けてしまいました。しかし,これは会社によるプライバシー権の侵害ではないでしょうか。
裁判例では,私的メールのプライバシー性を認めており,会社内の責任ある立場の人であっても,誰でも私的メールを監視することが出来るわけではないとされています。私的メールの使用頻度や,その記載内容,会社がメールを監視していた状況等,具体的な事情によっては,プライバシー権の侵害といえる場合もあるでしょう。
建設会社の現場監督として働いていたのですが,病気により,外で長時間勤務することが出来なくなったため,事務作業をする部署への配転を会社に求めました。しかし,会社はこれを認めてくれずに,解雇されてしまいました。この解雇は覆せないものでしょうか。
傷病により,従前の職務に戻れない場合にも,職務限定のない労働者の場合には,会社としては,他の就労が可能な職務に配置転換する必要があります。そのような配置転換を検討することなく解雇されたということであれば,解雇無効を争う余地が十分にあるでしょう。
現在パートとしてある事務所で働いているのですが,パートには労災保険の適用はないと事務所の人に言われています。私が仕事で怪我などをしたら,どうなるのでしょうか。
労働者であれば,皆さん労災保険の対象者です。これは,正社員であろうと,パートやアルバイトでも同じです。事務所の方に確認されるべきでしょう。
工場に勤めている私の主人が、作業中、手をはさまれるという事故に遭いました。事業主に労災保険の保険給付を受けられるように手続をして欲しいと頼んだのですが、夫にも不注意があった事故だから労災保険は支給されない、また、そもそもうちの会社は労災保険に加入していないし、保険料も支払っていないから手続をしても無駄だと言われました。本当に保険給付を受けられないのでしょうか。
仕事中にけがをした場合、労災保険によって、治療費分の補償(療養補償給付)や会社を休んだ分の給料の補償(休業補償)、後遺障害が残ればその補償(障害補償)を受けることができます。
事故に遭った労働者に多少の過失があったとしても、それを理由として保険給付が行われなくなるということはありません。労働者災害補償保険法は、政府が保険給付を制限できるケースを、(1)被災者が故意に、言い換えるとわざと負傷の原因となった事故を発生させた場合、(2)被災者の故意の犯罪行為もしくは重大な過失によって事故が発生し、その結果、負傷した場合、(3)被災者が、正当な理由がないのに療養に関する指示に従わないことにより、負傷等の程度を増進させ、もしくは、その回復を妨げた場合に限定して、被災者の保護を図っているのです(労災保険法12条の2の2)。
次に、事業主が労災保険の加入手続をしてなかったとのことですが、この場合であっても当然に保険給付を受けることができます。労災保険の強制適用事業(殆どの事業が強制適用事業です。)については、事業が開始された日に労災保険の保険関係が成立すると定められていて、加入手続をしていたか否かにかかわりなく当然に労災保険の適用があるからです(労働保険徴収法3条)。また、事業主が保険料を納めていない点も、使用者が保険料を追徴されるだけで、保険給付を受けることの妨げにはなりません。事業主が保険給付の請求手続にどうしても協力しようとしない時は、すぐに相談にいらしてください。
今の会社に採用されて3年経ったのですが、その間、昇給はありませんでした。業績が思わしくないので、我慢してくれというので、渋々納得しました。ところが、今度は、いきなり、給料を下げるといってきました。こんなことが許されるのでしょうか。
あなたの給料が、いかなる根拠によって下げられようとしているかによって、異なってきます。
まず、就業規則の給与規定の変更による場合について考えてみましょう。就業規則の変更ですからまず労働基準法で定められた手続的義務(労働者の意見聴取義務、労基署への届出義務、周知義務)が履行されていることが必要です。この手続き的義務が履行されていても、この場合、その内容が労働者に不利益な労働条件を一方的に課すことになるので、原則として許されません。ただ、不利益な変更であっても、その変更が必要性、内容とも、合理的なものである場合に限って、許される場合があります。しかし、給料を下げるというのは、労働者にとって、生活に直結することですから、「できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである」(みちのく銀行事件最高裁判決・2000年9月7日)ことが必要とされます。
労働協約締結による場合もありますが、ここではその説明は省きます。就業規則、労働協約にも基づかない場合には、個々の労働者の合意が必要となります。
裁判(1994年9月14日東京地裁判決)でも、企業業績悪化を理由とした賃金減額支給措置について、従業員の同意が必要であるとして、これを違法と判断しました。
この判決では、「労働契約において賃金は最も重要な労働条件としての契約要素であることはいうまでもなく、これを従業員の同意を得ることなく一方的に不利益に変更することはできない」として、会社主張の合理性があったとしても、賃金減額は許されないと判断したのです。
あなたの場合も、納得できなければ、他の同僚とよく話し合って、まとまって、きちっと反対であることを伝えた方が良いでしょう。
私は、今年5月に退職する予定ですが、就業規則によると勤続年数に応じて退職金を受け取ることができることになっています。しかし、最近になって、社長から、退職金については、1年前に就業規則を変更したので、今までの半分しか出ないと言われました。そのような変更がなされたことは全然知りませんでしたが、調べてみると確かに労基署に変更届が出され、受理されていました。私は、半分の額の退職金で我慢しなくてはならないのでしょうか。
本件は、使用者が、就業規則を労働者の不利になるように変更した場合に、その変更について、承諾していない労働者は、新しい就業規則に従わねばならないかという問題です。
この点に関して、最高裁判所の裁判例では、一方的な不利益変更は原則として許されないが、就業規則の性質からいって当該条項が合理的なものであるかぎり、新しい就業規則が適用されるとなっています。
そこで、今回の件について検討すると、退職金を従来の半額にするという変更が合理的なものかという問題になります。しかし、一般的に考えて、経営不振などの理由だけでは合理的なものということはできないと思われます。もっとも、退職金減額に見合うだけの有利な労働条件が提示されているというのであれば、合理性を認める余地もあるかも知れませんが、退職金を半額にすることに見合う条件が提示されているとは思われません。
従って、今回の件では、相談者は、従来の就業規則の退職金規程によって算出された退職金を請求できます。