法律相談のいくつかの事例をご紹介します。
Q1
亡くなった父は,生前,兄が結婚する際に,多額のお金を援助していました。父の相続において,このことは考慮されないのでしょうか。
Q2
私は,生前父が営んでいた事業を,自分の生活も犠牲にし,長年ほぼ無償で手助けしてきました。今回の父の相続では,このような事情は考慮されないのでしょうか。
Q3
私の亡くなった内縁の夫には,相続人がいません。しかし,それなりの遺産が残ったままになっています。これは今後どうなってしまうのでしょうか。
Q4
先日夫が亡くなりました。夫は借金を残していたため,相続放棄を考えています。しかし,勤務先からは夫の死亡退職金があると言われ,また受取人を私とする夫がかけていた生命保険があります。これらも放棄しなければなりませんか。
Q5
両親が死亡後,兄弟の間で,仏壇や位牌,墓地などについての分け方について,話し合いが進みません。どうしたらよいのでしょうか。
Q6
亡くなった父は,知人に貸しているマンションを遺産として残しました。知人からは賃料が毎月送金されてくるのですが,相続人間での父の遺産分割がまだ出来ていないため,この賃料をどう保管したらいいのか,戸惑っています。
Q7
亡くなった夫との間には,10歳の息子がいます。夫の遺産についての分割協議はどのようにしたらよいのでしょうか。
Q8
私の子供達の兄弟間の中が悪く,私の死後に色々ともめるのではないかと心配です。今回遺言を書くにあたって,「兄弟は仲良く暮らすように」という一文を入れたいのですが,これは有効でしょうか。
Q9
亡くなった父の遺言を見つけました。封印がされているのですが,勝手に開封していいのでしょうか。
Q10
私は,相続人でない知人に,財産の一部である土地を譲りたいと考えています。いますぐに贈与するのと,遺言によって残すのと,どちらがいいのでしょうか。
Q11
昨年,遺言を書きました。ところが,その後息子達の間にいざこざがあり,遺言の内容を変えたいと考えています。しかし,昨年書いた遺言は息子の一人が持っているため,取り返せそうにありません。どうしたらよいでしょうか。
Q12
亡くなった母は,遺言によって,私たち相続人の遺産の分け方を細かく指定していたのですが,私たちは母の遺産をこれにとらわれずに分けたいと思っています。何か問題がありますか。
Q13
昭和37年に父が亡くなってから今年で40年になります。遺産分割をしないままできましたが相続分の請求はもうできないのですか?
遺産の借地の上に自宅がありそこに住む長男が地代をずっと支払っています。
Q14
私は、二人兄弟の長男です。今年の二月に父が死亡して、私たち二人が父の財産を相続することになりました。他に相続人はいません。生前、父は遺言書を私に見せてくれましたが、その内容は同居していた私に土地建物を、弟に預貯金を、という内容でした。ところが、この遺言書には日付がなかったため、弟は、この遺言書は無効であり、自分は全遺産の半分を相続する権利があるのではないかと言っています。私が土地建物を単独で取得することはできないのでしょうか。
亡くなった父は,生前,兄が結婚する際に,多額のお金を援助していました。父の相続において,このことは考慮されないのでしょうか。
民法903条1項では「被相続人から,遺贈を受け,又は婚姻,養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与」されたものが特別受益になると規定されていますので,この援助は,特別受益として,相続財産とみなされる可能性があります。詳細は弁護士にご相談ください。
私は,生前父が営んでいた事業を,自分の生活も犠牲にし,長年ほぼ無償で手助けしてきました。今回の父の相続では,このような事情は考慮されないのでしょうか。
民法904条の2では「被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付,被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産」に特別の寄与をした相続人には,寄与分が認められることになっています。今回のケースでも,あなたには寄与分が認められる可能性があります。相続人全員の協議でこの寄与分の話し合いがつかない場合には,家庭裁判所の調停・審判で決せられることになります。
私の亡くなった内縁の夫には,相続人がいません。しかし,それなりの遺産が残ったままになっています。これは今後どうなってしまうのでしょうか。
当面は,相続財産が特別の法人となり,相続財産管理人が裁判所から選任され,この者が相続財産を管理します。この管理人が,精算手続を行い(被相続人 の債権者への債務弁済など),その後は基本的に相続財産は国の財産となります。ただし,被相続人と特別の縁故関係にあった者が裁判所に申立を行えば,相続財産の一部をもらえることもあります。弁護士にご相談ください。
先日夫が亡くなりました。夫は借金を残していたため,相続放棄を考えています。しかし,勤務先からは夫の死亡退職金があると言われ,また受取人を私とする夫がかけていた生命保険があります。これらも放棄しなければなりませんか。
死亡退職金も,受取人が相続人である生命保険金も,相続財産ではないとされています。そのため,相続放棄をしても受け取ることができます。なお,これらは,相続との関係では相続財産ではないとしても,税務上は相続税の対象とされていますので,ご注意ください。
両親が死亡後,兄弟の間で,仏壇や位牌,墓地などについての分け方について,話し合いが進みません。どうしたらよいのでしょうか。
これら祭祀財産は,相続財産とは別物とされ,民法897条では,「習慣に従って先祖の祭祀を主宰すべき者」が承継すべきとされています。習慣がない場合には,家庭裁判所が決めることになりますが,主催者について「被相続人の指定」がある場合には,これによります。
亡くなった父は,知人に貸しているマンションを遺産として残しました。知人からは賃料が毎月送金されてくるのですが,相続人間での父の遺産分割がまだ出来ていないため,この賃料をどう保管したらいいのか,戸惑っています。
遺産であるマンションの賃料も,遺産分割がされるまでは,遺産分割の対象となります。そこで,被相続人名義の口座で管理をしておくか,相続人の代表者を決め,その者が管理するのがよいでしょう。
亡くなった夫との間には,10歳の息子がいます。夫の遺産についての分割協議はどのようにしたらよいのでしょうか。
子が未成年者である場合には,その法律行為は原則として,親権者が代理人となります。しかし,母と子の間の遺産分割協議について,子を母が代理したのでは,子の利益が不当に侵害されてしまうおそれがあります。そこで,未成年者の子の代理人は家庭裁判所が選任することになっています(民法826条1項)。あなたは,この特別代理人と遺産分割協議をすることになります。
私の子供達の兄弟間の中が悪く,私の死後に色々ともめるのではないかと心配です。今回遺言を書くにあたって,「兄弟は仲良く暮らすように」という一文を入れたいのですが,これは有効でしょうか。
遺言をすることで法的に効力がある事項は,民法で定められており(例えば,認知や相続分の指定,遺言者執行者の指定等),教示などについては法的な拘束力はありません。しかし,遺言として書いてはいけないということではありませんので,必要に応じて記載することはありえるでしょう。
亡くなった父の遺言を見つけました。封印がされているのですが,勝手に開封していいのでしょうか。
封印のある遺言書は,公正証書遺言でない限り,勝手に開封してはいけません。家庭裁判所で開封と検認という手続きを行ってください。検認手続きは,遺言書の偽造などを防ぎぐために行われるもので,相続人等の立ち会いのもとに実施されます。なお,仮に検認手続きを踏まなかったとしても,それで遺言が無効となるものではありません。
私は,相続人でない知人に,財産の一部である土地を譲りたいと考えています。いますぐに贈与するのと,遺言によって残すのと,どちらがいいのでしょうか。
一概にとちらがいいということは言えないでしょうが,贈与をする時期を問わないのであれば,遺言によって贈与する遺贈の方が,相続税の支払いで済み,贈与税よりも有利ということはあります。
昨年,遺言を書きました。ところが,その後息子達の間にいざこざがあり,遺言の内容を変えたいと考えています。しかし,昨年書いた遺言は息子の一人が持っているため,取り返せそうにありません。どうしたらよいでしょうか。
民法1022条は,「遺言者は,何時でも,遺言の方式に従って,その遺言の全部または一部を取り消すことができる」と規定しています。つまり,遺言は撤回が自由ですので,古い遺言を破棄など出来なくとも,新しい遺言を作成すれば,それが有効となります。
亡くなった母は,遺言によって,私たち相続人の遺産の分け方を細かく指定していたのですが,私たちは母の遺産をこれにとらわれずに分けたいと思っています。何か問題がありますか。
遺言がある以上,被相続人の意思は尊重されるべきですが,相続人全員が, 遺言の内容とは異なる遺産の分割に合意しているのであれば,この合意は有効で す。遺言の内容に縛られることはありません。
昭和37年に父が亡くなってから今年で40年になります。遺産分割をしないままできましたが相続分の請求はもうできないのですか?
遺産の借地の上に自宅がありそこに住む長男が地代をずっと支払っています。
相続と時効の問題です。(1)相続財産は、数人いる相続人が遺産を共同で所有していると考えられますので、父の死亡後、何年経っていても遺産分割の請求をすることは原則として可能です。分割請求をして、相続人間の協議が成立しないときや、協議に応じてもらえないときは家庭裁判所に遺産分割調停の申立をして、そこでの話し合いになります。遺産分割は、遺産の性質や各相続人の状況などいろいろな事情を考慮して相続人皆が納得できる分割ができてほしいですね(民法906条)。
(2)ただ、相続と時効の問題から、遺産分割請求ができない場合が考えられます。その一つは、相続回復請求権の消滅時効の問題です(民法884条)。一部の相続人が相続財産を侵害していることを知ってから5年、相続開始から20年間、その是正を請求しない場合でその相続侵害者である相続人が侵害に悪意で相続による持分があると信ずることに合理的な理由が無い場合を除き、遺産分割請求権は消滅時効にかかり、この場合、分割の請求はできません(最高裁判決昭和53年12月20日)。
(3)もう一つの場合は取得時効です。単独占有を継続してきた一部の共同相続人に遺産の取得時効が成立するかどうかの問題です。最高裁判決は共同相続人の間でも民法162条の取得時効の成立はあるとしました(同昭和47年9月8日)。場合によっては、善意の取得時効のほうが、884条の5年ないし20年の消滅時効より先に経過する場合もあり、ただ、取得時効が成立する為にはその占有が自主占有であることが必要です。その相続人が単独に相続したものと信じて、相続財産を占有し、信ずることに合理的理由があると考え、他の相続人がそれにつき何も関心を持たず異議を述べなかったような場合、取得時効を認めてよいと考えます。借地権も時効取得が可能です。
私は、二人兄弟の長男です。今年の二月に父が死亡して、私たち二人が父の財産を相続することになりました。他に相続人はいません。生前、父は遺言書を私に見せてくれましたが、その内容は同居していた私に土地建物を、弟に預貯金を、という内容でした。ところが、この遺言書には日付がなかったため、弟は、この遺言書は無効であり、自分は全遺産の半分を相続する権利があるのではないかと言っています。私が土地建物を単独で取得することはできないのでしょうか。
遺言には自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の三種類があります。自筆証書遺言は簡単に作成できるというメリットがありますが、形式を欠くと無効になってしまいます。本件でも、日付という形式を欠いているため遺言書は無効です。従って、あなたと弟さんが法定相続分に従いそれぞれ遺産の二分の一を相続することになります。
ただし、遺産をどのように分けるかという点については、弟さんとの遺産分割協議により決定することになります。例えば、弟さんとの間で、あなたが土地建物、弟さんが預貯金というように決めるわけです。この場合、土地建物の価値が預貯金を上回る場合でも弟さんに異存がなければ問題はありません。
仮に、右協議が整わない場合、家庭裁判所の調停、それでも整わないときは審判という手続によって遺産分割の内容を決めていくことになります。
なお、裁判例には、無効である自筆証書遺言を死因贈与書面として有効としたものがあります。これはさまざまな要素を総合考慮したものですが、本件でも、遺言書の内容をあなたに伝えているだけでなく、遺言書をあなたに見せた上で保管させていた等の事情があれば、死因贈与として遺言書が有効になる可能性があると思われます。